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THE THING 〜It tastes fantastic〜

 

放課後の事だった。
「祐一、料理を教えてほしい」
「は?」
肉まんを蒸し器に入れて蒸かしたらたい焼きになっていた。ピザまんになるならまだしもたい焼きとはまいったな……というくらいの唐突さで、舞が言う。
さすがに祐一もぽかんとなった。
料理? 舞が? マイガ? MY GOD?
…………いや、待て。落ち着けおれ。
舞が料理を。……つまり、それは、舞が女の子に目覚めたという事か(語弊有り)? だったらいい事じゃないか。協力してやらねば…………しかし料理をおれに頼むか? どうせ頼むなら佐祐理さんに――
はた、と気付く。
「そうか。舞、お前、佐祐理さんに――」
「うん」
舞は、肯定はするものの、うなずくでもなく、照れて下を向いてしまう。
か、かわいひ……
…………いやいや、待て。再度落ち着けおれ。
今日、佐祐理は学校を休んでいた。風邪を引いたらしい。
乏しい会話と切ない沈黙に支配された屋上前の踊り場で、舞とただただ牛丼を口に運ぶ昼休みはいつになく哀しいものがあった。
祐一は改めて、倉田佐祐理という人間の偉大さというか存在感というか必要性というか……そんなものを感じたのだが……
その病床に伏せる佐祐理のために料理を作ってお見舞いに行こうというのだ、舞は。
「そういう事なら協力しないわけにはいかないが…………おれにはカップやきそばの湯を捨てずにソースを入れた前科があるからなあ……」
舞の視線がひどく冷たくなった気がするが、敢えて気にしない。
「料理ったらやっぱり…………」

明けて祝日。
舞と秋子さんはキッチンで料理の真っ最中だ。
結局、祐一は秋子さんを頼ることにして舞を家まで連れ帰ったのだが、舞と秋子さんが意気投合して、そのまま一泊することになったのだった。もっとも、連れていったのが舞でなくても、秋子さんにかかれば同じだったろうが。
お粥だけではなんなので、と、いろいろ秋子さんが舞に教えている。と言うよりは、秋子さんが教えたがっている、という方が正しいかもしれない。が、舞も楽しそうなので、そのあたりの事は特に気にするような事ではないだろう。
遅く起きた祐一と、もっと遅く起きた名雪は、キッチンの二人を横目にこれから朝食なのだが……
舞のエプロン姿を見るのは、もちろん初めてである。
「…………」
………………いい。
祐一は誰にも気付かれないように、一人感涙にむせんでいた。
そのままトーストを食べようと席について――感涙は血涙に変わった。
立ってはいるが脳の八割がスリープモードに入りっぱなしだった名雪も、一瞬で覚醒し、瞠目する。
視線は、テーブルの中央を捕らえて、凍り付いた。
在ったのだ。在ってはならぬ物が、そこに。
「――謎ジャ」
「祐一!」
思わず口走る祐一を名雪が咎めるように制した。普段からは想像もできない俊敏さで。
走る緊張。瞬間、その空間だけ時が止まる。予期せぬ大惨事。あるいは突然の悲報、と言えるかもしれない。目覚めの爽快感はまるで空気中に霧吹きで放った水滴のように霧散した。
何故これが?
祐一も名雪も、朝食はトースト派である。しかし、このジャム――通称謎ジャムがテーブルに出る事はごく希だ。
答えは一つしかなかった。
「舞…………」
嫌な汗が背筋を滑り落ちる。喉がからからに乾いていた。
祐一は秋子さんの隙をうかがって…………そして、訊いた。
「……食ったのか? これ……」
「うん。……おいしかった」
その一言は電光となって祐一を、そして名雪の鼓膜を打ち抜き、神経系を蹂躪して脳内を致命的に破壊した。
名雪はがた、と椅子に倒れ込むように座り、そのままテーブルに突っ伏した。細かく痙攣している。
祐一は祐一で、遠ざかろうとする意識を懸命に麻縄で脳のどっかその辺に括り付け、自我を保つのに必死だった。
しかし、本当の爆弾は直後だった。
「佐祐理にも食べさせてあげる」
祐一は何も聞こえないフリをした。聞いていられなかった。
毛細血管が緊張に耐えかね、各所で破裂し、血の汗が流れ始める。
殺人の現場を目撃すると、こういう気分になるのではないか?
そんな祐一にかまわず、舞はキッチンに戻る。どうやら料理は結構楽しいらしい。
「祐一…………」
「お、落ち着け、名雪。取り敢えず深呼吸だ。……はい、腕を伸ばして、背伸びの運動〜」
「祐一」
取り敢えず、祐一とともにラジオ体操をしながら名雪は脅えたように……いや、脅えて言う。
「舞の味覚云々は……この際忘れよう。問題は佐祐理さんだ」
「うん……体が弱ってるときに食べたら……どうなると思う?」
「解らん。死ぬことはないだろうが……」
ラジオ体操をしつつ呟き、考える。
……いや、死ぬかも。
残された時間は少ない。
佐祐理さんの分が確保される前に、しかも、舞と秋子さんに気付かれないように事を運ばなければならない。
つまり、それは、この朝食の時間しかチャンスはない、ということだ。
そして、テーブルには慎ましく湯気を立てるトースト……おれの朝食。
すべては佐祐理さんの笑顔を守るため――
祐一は、漢になる決心をした。
ジャムは、大き目の瓶に八分目ほど残っていた。

お昼をちょっと回ったころの倉田邸で。
「え、舞が作ったの?」
佐祐理がベッドの上で目を丸くする。
「食べてもいいかな?」
舞がうなずくのを確認して、佐祐里はお粥を口に運んだ。程よく冷めていて、熱すぎもせず非常に食べやすい。
「すごいすごい。とってもおいしいよ。ありがとう、舞」
舞は照れたようにうつむいた。
「本当は、もう一品あったけど、祐一が間違えて食べちゃった」
お粥にジャムを合わせる感覚は舞独特だが……そのあたりはたいした問題ではない。
「ほえ」
「それで祐一、食べ過ぎでお腹壊した。佐祐理にお大事に、って」
事実は食べ過ぎではないのだが。
「あははー。祐一さんらしいねぇ」
佐祐理は朗らかに微笑んだ。昨日一日休んだこともあって、熱も下がり、だいぶ回復してきているようだ。
佐祐理の笑顔は守られた。

その頃、水瀬家二階にて。
「祐一、しっかりして祐一!」
「う゛う゛……か、川が…………」
「祐一? 渡っちゃだめだよ!」
「うふふ……天使が飛んでるな…………」
「なに逝ってるの祐一! わたしだよ、名雪だよ! 目を開けて!」
「みさお……ほら、カメレオンで遊ぼう。手のひらでこうやって……ころころころ…………ぐはぁ」
「みさおって誰!? カメレオンって何!? 祐一、しっかりして!」
「…………」
「祐一ぃぃ……」

同じく水瀬家キッチン。
「まさか、あんなにおいしそうに食べてくれるなんて……」
秋子さんは上機嫌だった。
「やっぱり、食べてくれる人がいると、作りがいがあるわね」
火にかけられた鍋には、大量の物体Xがことことと煮られ、非常に、こう…………ファンタスティックな香りを立てていた。
「今度はいっぱい作らなきゃね。祐一さん、喜んでくれるかしら」
右手を頬に当て、穏やかに、そして幸せそうに微笑む。
そして呟いた。
「それにしても……量が増えると、捕まえるのも大変ね」

 


たいそうなタイトルの割にわけの解らんSSです。すいません。
因みにタイトルは「ザ・スニーカー」に連載中の某ラグナロクの小説タイトルからとりました(^^;
ありがちな上にオチがいまいち・・・・・・
初めて書いたKanonSSなんですが・・・・・・恥ずい・・・・・・愚痴ばっかりで申し訳ない・・・・・・

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